ONLOOKER Ⅲ
静かに唖然としていた。
視線を五つも浴びながら、彼は、マイペースにティーカップを口許に運んでいる。
なんとなく動けなくて、顔を見合わせることも、夏生に視線で問いかけることもできない。
しばらくそんな変な状況が続くかと思われたが、すぐに視界に入った動くものは、黒髪をふらりと揺らして立ち上がった、彼女だった。
「准乃介、お前まさか……っ」
なぜ紅がそんな反応を。
疑問が浮かぶよりも先に、夏生が口を開く。
「依頼内容は個人間トラブル。うちの生徒会副会長が、」
「おい夏生、」
「何者かにいやがらせを受けてるらしい」
「夏生やめろっ!」
「犯人を突き止めて、……やめさせろ、と」
声を荒げる紅に対し、静かな口調のままで、夏生は最後まで言い切った。
副会長がいやがらせを受けているから、突き止めてやめさせろ。
副会長がいやがらせ。
紅が、いやがらせを受けている。
その言葉を理解してやっと直姫たちは、彼女が大声を上げた意味に気付く。
彼だけは、始めから、それを知っていたのだと。
そしてどういう訳かは分からないが、それが今日のこの雰囲気と、二人の間に空いた妙な距離の要因なのだと。