ONLOOKER Ⅲ
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「西林寺くん、今朝東先輩と一緒にいました?」
その日の、昼休みのことだ。
ねぇ、と話しかけてきたクラスメイトの女子生徒の名前は、確か春日丘さんだ。
人の顔と名前を覚えるのがやたらと苦手な直姫でも、さすがに入学して二ヶ月以上も経てば、クラスメイトの名前くらいは覚えられる。
「うん、知り合い?」
「いえ、話したことはないのですけれど……私のピアノの先生が、前に受け持っていた生徒さんらしいですわ」
そういえば千佐都は、定期発表会でピアノ演奏を披露したと言っていた。
鈍感な直姫が知らないだけで、校内では有名人であるという可能性は十分にあったのだ。
「でも、東先輩が中学二年生の頃には、もう自分が教えられることはなにもなかったとおっしゃってましたわ。発表会の時も、あまりの腕前にとても感動しましたもの。朗読の方も素敵でしたし」
「へぇ……すごい人なんだね」
「あら? 西林寺くん、ご友人じゃ……」
「いや、自分は、昨日偶然会っただけで」
「そうですの……」
中学生の頃から実力を認められた、若きピアニスト。
そんな人が、なぜわざわざ自分に話しかけてきたのか。
直姫が深く理由を考えることは、この時はまだ、なかった。