ONLOOKER Ⅲ
──がん、がんがん、
その時、不意にノッカーが鳴った。
焦っているように激しく続く音に、夏生は静かに、どうぞ、と言う。
勢いよく開いた扉の向こうにいたのは、一部にはとても馴染みがあり、また一部にはほとんど面識がなく、残りの一部にはどちらでもない、そんな人物だった。
「あれぇ? 圭ちゃん先生じゃにゃい」
「どーしたんスか?」
「つっ、石蕗!」
「え?」
三年C組担任であり、全学年の地理を担当していて、しかしなぜかいつもジャージ姿でいる女教師、松永圭(まつながけい)だ。
息を切らした彼女は、一目散に紅のもとへ近寄ってきた。
担任の急な登場に驚いたのか、突然名前を呼ばれたことに驚いたのか。
目を丸くした紅の、瞬きの多さが、彼女の心の動きを物語っている。
要するに、圭の勢いと必死な形相に、呆気にとられていたのだ。
「お前、いじめを受けてるんだってな! どうして私に言ってくれなかったんだ!? 怪我はしてないのか、なにされたんだ、先生に言ってみろ、な? そりゃお前は可愛いしなんでもできるし家柄もいいし可愛いし僻みなんて日常茶飯事かもしれないけど、でも泣き寝入りなんて絶対にだめだ、正々堂々と戦うんだ、先生が力になるから! 私じゃ頼りないかもしれないけどでも一緒に戦うから、私はいつでもお前の味方だからな!」
え、あ、はぁ、いや、あの。
肩を掴まれて揺さぶられる紅の口から、そんな意味のない音が出てくる。
なんだか、誇大に誤解をしている気がする。
そして無駄な勢いと熱がある。
どこで息継ぎをしているのか、口に挟む隙を一切与えてくれない。