ONLOOKER Ⅲ
* *
もうここ最近で何度目か分からない動揺に、紅は溜め息を吐いた。
今日は竹刀に仕込まれた、剃刀の刃。
鮮血が細く滲む指先を、眺める。
(……早く解決させなければ……私のせいで関係のない生徒まで、すでに巻き込んでしまっているのだろうな……)
憂い気に目を伏せようとなにをしようと、揺るがない美貌。
そんな彼女を見つめる視線が二つ、あった。
一つは憎悪、もう一つは──。
* *
「ねぇ、直姫」
「ん?」
「先輩たち、大丈夫かな」
「うーん」
「なんかね、准乃介先輩が心配したのに、紅先輩が自分一人で解決できるから助けなんかいらないって言っちゃって、それで喧嘩になっちゃったんだって」
「へぇ」
「紅先輩、准乃介先輩を怒らせちゃったって、すごく落ち込んでたんだけど」
「うん」
「でもきっと自分から謝ったりとかしない気がするんだよね」
「うん」
「准乃介先輩もなに考えてんのか全然わかんないし」
「うん」
「ねぇ、直姫」
「ん?」
「聞いてる?」
直姫が目を落とす映画雑誌を一瞥して、真琴は鼻で溜め息を吐いた。
それは、彼女がやはりなにも聞いていなかったことを悟った溜め息だ。