ONLOOKER Ⅲ

准乃介先輩がコワイ


***

あくる日の生徒会室は、緊張感に包まれていた。
いつもなら、紅が怒っていようが夏生が寝起きだろうが真琴が役作りで不良だろうが、ひたすら呑気な空気を崩すことのない、この部屋が、だ。

それは単に、彼が無表情なせいであった。


(ちょっ、准乃介先輩が怖い……!)


そんなオーラをひしひしと発しながら、聖と真琴はソファーの後ろに立っていた。

応接スペースには、二人掛けを一人掛けが挟むようにして、縦長のコの字のようにソファーが並んでいる。
その一人掛けに座って、准乃介の向かいで大きな体を縮こめる男子生徒がいた。
元剣道部員の、豊中だ。

いわば重要参考人として呼ばれた彼だが、真正面から睨まれるでもなくじっと浴びせられる視線に、やはり聖たちと同じように感じているのは、明らかだろう。

そんな重苦しい雰囲気を払拭するように、必要以上に爽やかな声色で、だが必要以上の内容は述べずに、夏生は微笑んで言った。
ちなみに彼は二人の間で、二人掛けのソファーに座っている。
准乃介側の隣には一人分の場所が空いているのだが、誰もそこには座ろうとはしなかった。


「すみません、わざわざ来ていただいて。石蕗紅先輩の噂は……知ってますよね?」
「はっ、はい、」
「そのことで、なにか心当たりがないか聞きたいんですが」
「あ、僕が紅先輩を恨んでるんじゃないかってことですよね!? 違うんです、僕はなにも」
「安心してください、今は紅先輩はいませんし。先輩となにがあったか、話してくれませんか?」
「え、いや……」


彼は、躊躇いがちに、ちらりと准乃介に視線を送った。
かちこちに固まった表情で、だがちゃんと、口を開く。
この学校で生徒会に非協力的な人間がどうなるか、ごく自然に理解しているのだ。

豊中の話では、彼が紅と折り合いが悪くて部活を止めたという噂は、まったくの事実無根である、ということだった。
ただ単純に、一年の終わりに足首に負ってしまった怪我のせいで稽古についていけなくなり、それで剣道部を辞めたのだと。

紅との間にトラブルはなく、確かに厳しいし怒らせれば怖かったが、それは彼女が真面目だからだとわかっている、と言っていた。
彼女が怖いのは、それだけ真剣に後輩を想ってくれているからだと知っている剣道部員には、尊敬こそすれ、彼女を恨む人間などいないという。

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