ONLOOKER Ⅲ
唇の柔らかい皮膚に鋭い痛みを感じて、リップクリームを取り落とした。
慌てて唇を触ると、指先に赤いものが付いて、唇が熱を持ってじんじんと痛み出した。
鏡を取り出して覗けば、横一閃に1cm以上もある、浅い傷。
まさかそんなところに針が埋め込んであるなどと、誰が思い付くだろうか。
だが、うっかり油断してしまった自分の失態だとわかっているだけに、紅が悪いわけでは決してないのに、怒るのではなく、なぜか困り果てていた。
保健室に行けば大事になってしまうかもしれないし、かといって迎えでも呼ぼうものなら、きっと大慌てで駆け付けてくるのは、あの榑松だ。
どちらにしろ、結果は同じだろう。
このくらいの手当てなら自分でできるだろうと、職員室に鍵を取りに行った。
理由を言わなくても鍵を借りられるほど信用されていることに、なんとなく後ろめたさを感じながら、とりあえず人に見られずにすむ生徒会室へ来た。
は、いいのだが。
(……これじゃ隠せる位置でもないな……)
指先で、もう一度軽く撫でる。
すでに乾燥した血液が移ることはなかったが、ぴりりと、引き攣れるような痛みに、わずかに顔を顰めた。
火照った傷口は、すでに少し腫れてきている。
こんないやがらせをする犯人が、わざわざ殺菌消毒した針を使ってくれるなんて、期待するだけ無駄だろう。
もう少し腫れるかもしれないと、一際深く溜め息を吐いた時だった。