ONLOOKER Ⅲ
──かちゃ、
なんの前触れもなく、ドアノブが回る。
紅は身を固くした。
聖と恋宵、真琴は仕事で来られないと言っていたし、用もないのにわざわざここへ来るほど勤勉な後輩などいないのをよく知っている(そうでなければ、毎回あの二人の遅刻癖に頭を悩ませることもないというものだ)。
混乱と困惑にしばし硬直するが、扉が開いて見えた顔は、見慣れた高さにあった。
「あ、やっぱり」
「……じゅんの、すけ?」
思わず気の抜けた声を出してから、知らず知らずの内に怯えていたことに気付いて、頬に朱を走らせた。
しかし自分では制御のしようがないその行動にまた気恥ずかしさを感じて、少し俯く。
それを誤魔化そうとして、固い声を出した。
そうだ、喧嘩中なのだと、心の中で自分に向けて言う。
「な、なんだ、やっぱりって」
「職員室に行ったら、鍵がなかったから。たぶん紅かなって」
話し方も声の高さも、仕草もいつも通りだ。
だが、いつもの彼のようで、いつもの彼ではない。
どこが違うのかと聞かれれば、「雰囲気」などと答えるしかないのだろうけれど。
「……紅」
ひくり、俯いたままで、肩を揺らした。
どことなく既視感。
最後にまともに言葉を交わしたあの時と、似ていると思ったのだ。
顎に、暖かい指先が触れた。
と思ったら、呆気なく上を向かされて、顔を逸らそうとしてもだめで、唇を噛みしめようにも、ずきりと痛くて。
彼の、あまり歪んでいるのを見たことのない眉が、前髪の下で険しく寄せられていた。
その視線は、紅の赤い唇に向いている。