ONLOOKER Ⅲ


「……准乃介」
「なに」
「……わるかった」
「紅は悪くないよ」
「違う。……心配、かけて。ごめん」
「んーん。……ね、」


目線で返事をすれば、指先が顎から離れて、唇を撫でた。
さっき、できたばかりの傷を。

「痛い?」と聞かれたので、正直に「いたい」と答える。
放っておいてもじんじんと痛むし、触るとヒリヒリする。
しばらく熱いお茶を飲めないかもしれない。
そうなったら、はつみつ入りの紅茶でも淹れてもらおうか、と思った。

傷口をかすかに刺激しながら、意味深に尋ねられた。


「舐めると痛いの?」
「?」


瞬きを一つして、小さく頷く。
准乃介は、わずかに目を伏せて、赤を見つめたままだ。


「……ふーん」


一週間と二日振りに、彼の微笑みを見た。
それが近付いてくるのに、紅は、ただ黙って、それを見ていた。

最後の抵抗はさっき終わってしまったのだ。と、自分に向かって心の中で言いながら。

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