ONLOOKER Ⅲ


「紅先輩のそういうところ、立派だとは思いますけど」
「直姫……? どういう意味だ」
「あんまり強がってばっかいないでくださいって言ってるんです」
「……別に強がってなんか、」
「周りから見て無理してるように見える時くらい、」


声を荒げるでもなく、心の底から心配そうに誠実で実直な瞳をぶつけるでもなく、真摯さを見せるでもなく、ただ淡々と。


「甘えたらどうですか」


しかし、視線だけはしっかりと、直姫は告げた。
今の今まで直姫の関心の対象範囲に入っている実感がなかったのか、紅は、目を見開いた。


「……直姫に」
「はい?」
「そんなこと、言われるとは、思ってもみなかった」
「……そんなに他人に興味ないように見えますか」
「あぁ、見えるな」


他人が見れば常に淡白な表情や声色に、ほんのわずかな感情の起伏が垣間見える。
これが直姫なりの、関心の払い方なのだ。
紅は、少し笑った。


「意外と不器用なんだな、お前」
「……紅先輩に言われたくないですよ」


そしてそんな、一応は和やかな雰囲気の中(何度も言うようだが、周りから見ても和やかであるとの保証はできない)、直姫が不本意そうに唇を尖らせていた時。
頭上で非常事態が用意されていることに、二人は気付いていなかった。

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