ONLOOKER Ⅲ
* *
「──紅!!」
今日は意外なことばかりだ、と、彼女は考えた。
普段は見ないような表情を、いくつも見ている。
そんなことを呑気に考える自分だって、普段は見せないような一面を見せたせいで、こんなことになっているわけだが。
なんらかの非常事態が起きた時、周りが騒ぎすぎるせいで本人が一番冷静になっているなんていうのは、よくあることだ。
「……あ、れ?」
「こんばんは、准乃介先輩。さっきぶりですね」
学校から歩いても十五分ほどで着く石蕗邸の、石庭を抜け、竹林の間を歩き、垂れ桜の巨木を横目に、渡り廊下を進んだ突き当たり。
その離れに、紅の部屋はある。
出迎えた榑松よりも速く、見たことのない慌てっぷりで駆け付けた准乃介を迎えたのは、泣きそうな顔をした紅と、宥める恋宵たちと、直姫の呆れた表情だった。
「上から鉢植えが落ちてきて、怪我したって聞いたんだけど」
「はい、怪我しました」
「紅が、半泣きで」
「はい、半泣きでした」
准乃介は用事があるから先に帰っていたはずだが、すぐに抜けてここまで来られたということは、仕事ではなかったのだろう。
どこから走って来たのか、いまだ荒い息を吐いている。
肩を上下させながら、直姫の腕に巻かれた包帯をまじまじと見た。
細めの包帯三巻き程度の、大怪我とはほど遠いものだ。
一応消毒薬と傷薬を塗ってガーゼを当ててはあるが、血はすぐに止まったし、意識しなければ特に痛くもない。
病院に行くほどですらなかったので、保健室で簡素な手当てをしてもらっただけだ。
きっと電話口の紅はひどく取り乱していて、主語が上手く伝わっていなかったのだろう。
恋宵が眉尻を下げた。