ONLOOKER Ⅲ
「あ……一昨日中庭で悲鳴を聞いたって、誰かが言っていて」
矛盾のない言い逃れの方法がその辺に浮かんででもいるかのように、ぐるぐると視線を泳がせて、その人は言った。
音を立てずに大きく息を吐いたが、肩は上下してしまっている。
こちらだって当然、その程度の切り返しを予想していなかったわけはない。
完璧な外見から感情だけ消し去ったままで、夏生はなおも言った。
「悲鳴? 誰のです?」
「石蕗さんのです。中庭から、確かに聞こえたと」
「石蕗先輩の悲鳴が聞こえたことと、西林寺が怪我をしたこと、どうして関係があると?」
「それは、その……さぁ……」
誰とも目を合わせないままで、首を傾げる。
そこまで相手の動揺を誘ってようやく、夏生の表情が動いた。
バランスの整った二重瞼をゆっくりと細めて、薄い唇の端が、持ち上がる。
微笑みだというにはあまりに冷ややかで、いつもの穏やかさ爽やかさとはかけ離れた、そんな笑みだった。
「変なこと聞いて、すみません。実は今日の本題は、このことじゃないんですよ。西林寺が、あなたに話があるというので」
「え……?」