ONLOOKER Ⅲ


その人は、わずかに目を見開いた。
夏生の不気味なほど美しい笑顔も気になったかもしれないが、それよりも、直姫とは、ほとんど面識がなかったからだろう。

顔を合わせるのも、前回ここへ呼ばれたのと今日とでまだ二度目だし、ましてや話したことなど一度もない。
そんな下級生が自分に話があるというのだから、不思議に思って当然だろう。

しかも、さっきの夏生との会話に、まだ説得力のある答えを返していないのだ。
直姫が夏生の隣のソファーに腰かけるのを、落ち着かない様子で見ていた。


「はじめまして、で、いいですよね」
「あ、あの……話、って……?」
「濁す必要もないので、単刀直入にお聞きしますが」


ふとその人は、表情を固くした。
気付いてしまったのだろう。

似ていたのだ、とても。
自分と対峙している二人の、雰囲気が。
視線の合わせ方が。


「石蕗副会長への嫌がらせの犯人、あなたでしょう。 ……里田さん」


まったく違う顔、違う表情で、同じ空気を醸し出す二人の少年を前に、その人──里田麻奈美は、瞠目したまま、笑っていた。

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