ボーカロイドお雪
 そして翌朝、てきめんに寝坊した。目が覚めて目覚まし時計を見ると八時三十分。完璧に遅刻だあ!なんでお母さん起こしてくれないのよ、と頭の中で恨みごとを言いながら大急ぎで制服を着る。スカートを腰に巻きつけたところでカレンダーが視界に入り、今日は土曜日だと気がついた。つまり学校はお休みの日。
 へたへたと床に腰を落として、制服を元のハンガーに戻し、普段着に改めて着替える。そして一抹の期待と不安を込めてノートパソコンを立ち上げた。パソコンの横にはお雪のソフトのディスクが入っていた黒い箱が転がっていた。
 どうやら「お雪」という名のソフトを家に持ち帰った事は夢ではなく現実の出来事だったようだ。問題はパソコンの中のキャラと話をしたのが現実だったのかどうかだ。
 ウィーンと音を立ててディスクドライブが回る。ドキドキしてスクリーンを見つめるあたしの目にボーカロイドの操作画面が現れる。その右端に3DCGの少女のキャラ。ここまでは昨夜と同じ。
 だが、ひとつだけ違っている事があった。画面の中のお雪が昨日と少し違って見える。昨夜は白いワンピースを着ているような感じだったが、今見るお雪は・・・なんとクマさん模様のパジャマ姿だった。ご丁寧にも頭には同じクマさん模様の三角キャップをかぶっている。
 この子、パソコンの画面の中で服を変えられるわけ?朝だからパジャマ姿?そこまで凝らなくてもよさそうなものだ、とあたしは半分あきれながら思った。
「あら、かすみ、おはよう。やっと起きたの?」
 パソコンのスピーカーから声が聞こえてくる。どうやら昨夜のあれは全て現実だったらしい。あたしはパソコンのキーボードを叩いて返事をする。
『昨日の事は夢じゃなかったのね』
「事実はライトノベルより奇なり、ってね」
『あたしはラノベ読まないからピンと来ないわね、それ。じゃあ、朝ご飯済んだら作曲付き合ってくれる?』
「それがわたしのお仕事だからね。早く帰って来てね。お・ね・え・さ・ま」
『変な呼び方すな!』
 そしてあたしは一階のリビングへお母さんのお小言付きの朝食を食べに降りて行った。
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