ボーカロイドお雪
 ボーカル部分のメロディーが出来たらお雪の画面のパレットに記録していく。お雪に歌わせて出来を確かめながら、あたしのギターの伴奏を合わせて見て、コードがちゃんとメロディーと会っているかどうかも確認する。
 これを毎日やっていたら3曲仕上げる事が出来た。どれも恋の歌だ。せつなく悲しい曲調の歌、明るいけどスローテンポの恋のもどかしさを表現した歌、長調単調を交互に織り交ぜ弦をストローク奏法で激しくかき鳴らす情熱的な恋の歌。
 うん我ながら上出来!次の日あたしは例の道具一式、ギター、そしてもちろんお雪が入ったノートパソコンを持って例の公園に出かけた。ただ今回は少し家を早く出た。公園に着くとまず隅にある公衆トイレに入る。その中でキャリーバッグから服を取り出し、ジーンズとTシャツからその服に着替える。
 下はぴっちりしたレギンス、その上に薄い半袖の黄色い花柄のミニのワンピースを着る。あたしは手洗い場の鏡で髪を整えながら服をチェックする。うん!これも我ながら上出来。この前よりはずっとガーリーな感じになっているはず。
 それから屋根のあるベンチに行き、パソコン、スピーカー、バッテリー、ヘッドホンその他の機材をセッティング。これで準備OK。あとは彼がやって来るのを待つだけ。
 ギターのチューニングをしながら公園の入り口をちらちら見ていると、来た!いつものようにくたびれたジーンズと半袖のポロシャツというラフな服装のあの人がやって来た。
 よし、お雪、出番だよ。あたしが目配せするとパソコンの画面は暗くなり、お雪のキャラだけが3DCGで画面に浮かび上がる。まずはいつものように、G線上のアリア・詠唱。
 公園に夕涼みに来ていた人たちがあたしの方に顔を向ける。何人かは前の演奏の事を覚えていてくれているらしい。でもあの人は相変わらず、歌を聴いているのかいないのか、あたしに背を向けたまま川べりの手すりにもたれている。
 ま、でもこれは予想済み。クラシックは聞き飽きてるのか、それともクラシックには興味がないのか?でも歌が嫌いではないみたいだし。
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