ボーカロイドお雪
 相手は、その音楽教室の先生らしい。高橋先生の昔の恩師ってとこね。
「あの、以前そちらの教室でユキコさんという中学生のお嬢さんが生徒の中にいらっしゃいましたよね。彼女のフルネームと、あと住所は分かりませんでしょうか?いえ、私の学校の生徒で、あ、女生徒なんですが、ユキコちゃんのファンだったという子がいまして。どうしても一度お会いしたいと。……はい……はい……まあ、それは助かります。はい、3時ごろですね。分かりました。お手数かけて申し訳ありません……はい、それでは後ほど」
 先生は電話を切ると、あたしに向き直って言った。
「調べれば分かるそうよ。でも、ちょっと時間がかかるって。6時間目が終わったら、もう一度来てくれる?それまでには折り返し電話があるはずだわ」
 あたしは何度も頭を縦に振り、椅子から立ち上がって先生に深々とまた頭を下げた。
 そして、6時間目が終わると、あたしの教室の外の廊下に高橋先生がいて、あたしを手招きしていた。飛ぶようにして先生の所へ行く。先生はあたしにメモ用紙を一枚手渡しながら言った。
「思ったより早く分かったわ。これがあの子のお母様の住所」
 あたしはまた先生に頭を下げてそのメモを見る。冒頭にこう書いてある。
『夏樹依子 雪子』
 住所は隣の県の県庁所在地だった。電車で二時間半というところ。以前に何度か家族や友達と遊びに行った事がある。これならあたし独りでも行ける。
 そうか、あの子の名前は夏樹雪子というのか。あたしの中の確信がさらに揺るぎない物になった。「雪」という字まで同じ。やっぱりそうだ。あの少女は「お雪」だ。
「行くなら次の日曜日が都合がいいそうよ。行く時は前日に私に言って。私からそちらのお宅に電話しておいてあげる」
 あたしは先生の両手を取ってギュッと握りしめ、何度も頭を下げてお礼をした。
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