ボーカロイドお雪
 そして次の日曜日、あたしは電車とバスを乗り継いで、その少女の自宅へ行った。高橋先生が前の日に電話を入れてくれたから、直接行けば会ってくれる。
 あたしの住む町も一応「市」を名乗っているから、それほどのど田舎じゃないけど、やはり県庁所在地はあたしにとっては大都会だ。
 バス乗り場に複数の路線の停留所があるってだけで、あたしにとっては別世界。お目当てのバス乗り場を探すのに手間取ったりして少し時間はかかったが、あたしはなんとかおしゃれな住宅街の中にある目当ての家にたどり着いた。
 二階建ての一戸建てで、洋風のしゃれた造り。門のインターホンのボタンを押し、先生に教えられた通り「どなた?」という声に、スピーカーをタン、タ、タンと三回リズムを叩く。
 ドアが開くのを待つ間、あたしは念のため制服のスカートがしわになっていないかチェックした。先生に言われて、日曜日だが学校の制服を着てきた。
 ほどなく家のドアが開き、あたしのお母さんと同じ年頃の、でもずっと上品で都会的な雰囲気の女の人が門扉までやって来る。
「佐倉かすみさん?」
 あたしはまず首だけで小さくうなずき、そして改めて大きくお辞儀をした。ガチャリと音がして門が開き、その女の人が中に入れてくれる。
「遠いところをよく来て下さったわね。私が雪子の母です。学校の高橋先生から事情は聞いています。あと、あなたの……話が出来ない、という事も。さ、とにかく中に入って」
 あたしはもう一度ペコリと頭を下げてその家に上がった。外側もだけど、中もすごくおしゃれな家だった。あちこちに高価そうな家具や装飾品が置いてある。うーん、雪子ちゃんってかなりいいとこのお嬢様?
 雪子ちゃんのお母さんはそのままあたしを二階へ導いた。雪子ちゃんが一緒に出て来なかったという事は、彼女は外出中なんだろうか。いいのかな、勝手に彼女の部屋に入って。まあ、お母さんが入れてくれるんだから大丈夫なんだろう。
 二階の部屋のドアが開けられ中へどうぞ、という仕草をされる。あたしはもう一回軽く頭を下げて、中に入る。いかにも年頃の女の子の部屋という感じだったが、あたしは奇妙な違和感を覚えた。なんというか、何か生活感という物がない。
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