ボーカロイドお雪
小首をかしげるあたしにまりちゃんが代わりに説明してくれた。
「あれからこれを探して買おうとしたけど、この町では見つからなくて。やっと見つけた時には、おねえさん、もうこの公園には来なくなっていたの。さっき、偶然この公園のそばを通ったら、歌が聞こえてきて。入ってみたら、やっぱりおねえさんだったから、大急ぎでこのお兄さんを連れて来たの。でも、出かける時にこの機械忘れて来て、もう一回アパートに戻ったりしたから、すっかり遅くなっちゃったの」
まりちゃんが息も継がずにそう話している間、猛さんはPDAのキーを慣れない手つきで必死に操作していた。いかにも初心者ですって感じで、あたしは思わずクスリとしそうになった。
まりちゃんに何度も急かされて、やっと打ち込んだ文章をあたしに向けて見せる。そこにはこう書かれていた。
『君の事がいつも気になっていた。でも僕はこんな体だから、相手にしてもらえないだろうと思って』
そうか!考えてみたら、体の障害という面では猛さんの方があたしより深刻だ。あたしはしゃべれないだけで耳は普通に聞こえるけど、彼は生まれつき耳が聞こえないわけだから言葉もしゃべれない。二重苦だ。
猛さんがまた文章を打ち込んでPDAの画面をあたしに見せる。そこには、あたしが思いもよらなかった言葉があった。
『いつもすてきな歌を見せてくれて、ありがとう』
あたしは一瞬ポカンとしてしまった。あわててキャリーバッグから自分のPDAを取り出して、文章を打ち込み猛さんに見せる。
『いえ、こちらこそありがとう。そう言ってもらえると』
そしてあたしは右手で口元を押さえて笑ってしまった。声は出せないから口を手で覆う必要はないのだろうけど、これは長年のクセというやつ。
いつだったか、テレビのトーク番組で有名な小説家がこんな事を言っていたのを思い出した。
視覚や聴覚に障害のある人は、ごく普通の職業の人でもプロの作家がドキッとするようなすばらしくユニークな表現をすることがある、と。
「歌を見せてくれて」……か。
あははは……、確かに耳の障害のない人にはちょっと思いつけない面白い言い方だ。あたしも、こんな風に表現されたのは生まれて初めてだ。
本人の目の前で失礼なのはよく分かってはいたけれど、あたしは笑いが止まらなかった。
「あれからこれを探して買おうとしたけど、この町では見つからなくて。やっと見つけた時には、おねえさん、もうこの公園には来なくなっていたの。さっき、偶然この公園のそばを通ったら、歌が聞こえてきて。入ってみたら、やっぱりおねえさんだったから、大急ぎでこのお兄さんを連れて来たの。でも、出かける時にこの機械忘れて来て、もう一回アパートに戻ったりしたから、すっかり遅くなっちゃったの」
まりちゃんが息も継がずにそう話している間、猛さんはPDAのキーを慣れない手つきで必死に操作していた。いかにも初心者ですって感じで、あたしは思わずクスリとしそうになった。
まりちゃんに何度も急かされて、やっと打ち込んだ文章をあたしに向けて見せる。そこにはこう書かれていた。
『君の事がいつも気になっていた。でも僕はこんな体だから、相手にしてもらえないだろうと思って』
そうか!考えてみたら、体の障害という面では猛さんの方があたしより深刻だ。あたしはしゃべれないだけで耳は普通に聞こえるけど、彼は生まれつき耳が聞こえないわけだから言葉もしゃべれない。二重苦だ。
猛さんがまた文章を打ち込んでPDAの画面をあたしに見せる。そこには、あたしが思いもよらなかった言葉があった。
『いつもすてきな歌を見せてくれて、ありがとう』
あたしは一瞬ポカンとしてしまった。あわててキャリーバッグから自分のPDAを取り出して、文章を打ち込み猛さんに見せる。
『いえ、こちらこそありがとう。そう言ってもらえると』
そしてあたしは右手で口元を押さえて笑ってしまった。声は出せないから口を手で覆う必要はないのだろうけど、これは長年のクセというやつ。
いつだったか、テレビのトーク番組で有名な小説家がこんな事を言っていたのを思い出した。
視覚や聴覚に障害のある人は、ごく普通の職業の人でもプロの作家がドキッとするようなすばらしくユニークな表現をすることがある、と。
「歌を見せてくれて」……か。
あははは……、確かに耳の障害のない人にはちょっと思いつけない面白い言い方だ。あたしも、こんな風に表現されたのは生まれて初めてだ。
本人の目の前で失礼なのはよく分かってはいたけれど、あたしは笑いが止まらなかった。