私立聖ブルージョークス女学院
単元1 卯月
 桜の花が舞い散る頃、僕はその街へ社会人としての第一歩を踏み出すためにやって来た。僕の職業は社会科系の高校教師。
 そして記念すべき最初の赴任先は、古い歴史のある閑静な地方都市にある名門高校。その名を聖ブルージョークス女学院。「聖」と書いて「セント」と読む。名前から分かるように、いわゆるクリスチャン系の女子校である。
 僕はこの四月から、この学校で教鞭を取る事になった、大学を出たての新米教師である。始業式前のその日、僕は着任にあいさつのために学校へ行った。
 建物を見てまず圧倒された。歴史の長い県下でも指折りの名門校で、けっこういい家庭のお嬢様が多いとは事前に聞いていた。
 敷地はおそろしく広く、正門などはお城か?と思うほど立派だ。門から一番近い建物までたっぷり歩いて五分はかかる。礼拝堂らしいゴシック様式の荘厳な建物がまず目を奪う。
 校舎も味気ない鉄筋コンクリートではなく、レンガの壁に一面ツタが這う、昔のヨーロッパ映画にでも出てきそうな建物だった。
 ぴかぴかの大きなドアを開けて校長室に入った時は心臓が破裂しそうなほど緊張したが、思いのほかにこやかなご老人だったので少し安心した。校長先生は白髪の好々爺然とした男性で、その横の皮張りのソファに、三角メガネをかけてきつそうな目つきの50歳ぐらいの女性がいた。この人が教頭先生だと言う。
 そこで聞いた説明によると、この学校、良家の子女を預かるだけあって、男性の教師は最低40歳以上の既婚者、という不文律があったそうだ。だが、今の時代にそれでは逆に生徒が世間知らずになってしまうという意見が出て、去年この人が校長になって方針を転換。若い独身の教師を、とりあえず一人入れてみようという事で僕が採用されたというわけだ。
 もっとも、教頭先生があまりその事を面白く思っていないようなのは、何となく態度で分かったが。
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