私立聖ブルージョークス女学院
「なるほど、高級品は片方が『玉将』なのか。僕の家で使っていたのは安物だったからな」
「いえ、先生。これは地域による違いだとか、流派による違いだとか、いろんな説があって、必ずしも高級品だからというわけではないそうですよ」
「そうなのか。いや、さすがは名門私立。先生も勉強になる事が多いなあ」
 感心しながらまた部員たちに目を戻すと、どの組も駒を動かす度にポッと顔を赤らめていた。ううん、さすがに異性の僕が突然入ってきたものだから、恥ずかしがっているのかな?
 あらためて一組の盤面を見ると、金将が玉将の近くに「ピシッ」という、あの独特の鋭い音を立てて置かれた。ほほう、王手寸前まで追い詰めているわけか。玉将を使っている方が上級生と聞いたから、下級生の方が押しているわけだ。
 どうするかと見ていたら、なんと玉将が動いて相手の歩を取った。なるほど、大将自ら動くという手があったか。
 隣の盤を見ると、やはり金将が玉将を追い詰めて、玉将が自ら動いてかわし、また金将が……ん?
 その隣のペアも、そのまた隣のペアも全く同じような展開だ。それも駒を動かす度に両方がポッと顔を赤らめるのも同じ……ここで、僕は一つ咳払いをして言った。
「ああ、君たち。先生は将棋の事はよく知らないのだが……」
 対局中の全員の視線がこちらへ向いたのを確かめて、僕は言葉を続けた。
「二人して『金』と『玉』ばかりいじくっていたら、永遠に対局が終わらないんじゃないか?」
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