私立聖ブルージョークス女学院
単元6 長月
 二学期が始まり、すこしずつ秋の気配が深まってきた九月の末。僕は寮生の一人であり、台湾からの交換留学生でもあるリン・ジンファンという三年生と、生徒指導室で向かい合って机に座っていた。
 この子は子供の頃からの日本のポップカルチャーの大ファンで、それが高じて日本の高校に留学を希望したらしい。
 学校の部活では軽音楽部を自分で結成し日本のアニソンを主に演奏しているし、日本の漫画やアニメにも目が無い。台湾ではそういう若者の事を「ハーリー族」と言うそうだ。「日本大好き人間」みたいな意味だそうだ。
 しかし授業中に漫画本をこっそり読んでいたため、他の先生に見つかり本は没収された。そこまではいかに名門校とは言え、珍しい事ではない。だが、その漫画本の内容が内容だったため、女性の先生では対応出来ないという事で、またこの子は寮生だから、僕が対応する事になったわけだ。
 ここは厳しく言うべきなのだろうが、繊細な年頃の女の子相手だし、しかも日本語が完ぺきとはいかない留学生だ。僕は慎重に言葉を選びながら彼女に話しかけた。
「いや、君たちの年頃で漫画に夢中になるのは仕方ないとは思うが、その何と言うか、もう少し年齢相応な内容の物を選ぶべきではないかな?」
「へえ、授業中に見とったんは怒られて当然やちゅうのはウチも分かってます」
 リン・ジンファンがそう言ったのでこの点はほっとした。この子、台湾で日本人に日本語を習ったと言うのだが、その人が関西人だったそうで、本人も日本語で話す時は関西弁でしゃべる癖がついてしまっている。
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