私立聖ブルージョークス女学院
単元9 師走
 聖ブルージョークス女学院の三年生は年末の試験が終わると受験準備期間に入る。まあたいていの生徒はどこかの大学に推薦入学するのだが、推薦と言っても一応学力試験はある所が多いし、最低でも面接試験はあるから、年明け以降はその準備のための特別授業が中心になる。
 大学入学が決まれば後は卒業式までかなり自由になるので生徒の気が緩みやすい時期だそうだ。教頭からは、その時期の寮生の行動には特に目を光らせておくように言われた。
 それに校内試験が終われば、クリスマスに冬休みの時期でもあるから、受験を控えた三年生と言えど浮かれがちになる。
 その試験前、ある日の昼間綾瀬先生と一緒に寮内を見回っていたら、あちこちの廊下のドアの横に段ボール箱が置いてあるのに気づいた。
 箱は閉じられてはいないが、異様なのはどの箱にも上に赤いマジックで「666」という数字が大きく書いてあった事だ。僕は首をかしげながら綾瀬先生に訊いてみた。
「何なんですか、この箱は?それにその数字、どの箱の上にも書いてありますが」
「ああ、これはね」
 そう言って綾瀬先生は段ボール箱の一つの蓋を少しめくって見せた。そこには漫画雑誌やらファッション雑誌などの娯楽用のいろいろな物が詰め込んであった。どれも十代の少女向けの物だから、寮生の私物だろう。
「受験する生徒が、気が散らないように遊びに使う品物なんかを廊下に出しておくんです。勉強に集中できるように。だから、その箱は放っておいていいですよ」
「なるほど。それは分かります。いや、僕も大学受験の時は、勉強しなきゃと思う程、妙に雑誌やゲーム機に目が行っちゃって。偉いものですね。それにしても、上に書いてあるその数字は何なんです?」
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