私立聖ブルージョークス女学院
そしてあっという間に、思い思いの方向へ走って行った。その姿が小さくなって見えなくなるまで、僕はその場に立ち尽くしていた。
綾瀬先生が戻って来た僕に手鏡と湿ったタオルを差し出す。
「はい、クレンジング液をしみ込ませてあるから、口紅も取れますよ」
「全くもう!綾瀬先生や教頭先生まで一緒になってなんですか!」
僕が鏡を見ながら必死に顔を拭いていると、校長が腹の底から楽しそうに笑っていた。
「いや、これはいい。いっそ、わが校の恒例行事にしましょうか?」
「もう、校長先生までやめて下さいよ!」
「ホホホ。ところで片山先生、これはどうしましょうか?」
そう言って校長がスーツの内ポケットから取り出したのは、先日僕が出した退職願の封筒だった。あ!そうだった。僕は手鏡とタオルを綾瀬先生に返し、校長の前に立って直立不動の姿勢を取った。そして深々と頭を下げて言った。
「はい。あの……もし、お許しいただけるなら、もう少しこの仕事を続けてみたいと、その、そう思っておりまして……」
「おや、そうですか。では、これはこうですね」
そう言って校長はその封筒をビリビリと破り、さらに何度も何度も破いて小さな紙切れの山に変えた。そしてこう叫びながら、それをパッと宙に投げ上げる。
「わが校の卒業生たちと片山先生に前途を祝して!」
それは紙吹雪の様に僕たちの頭上に舞い上がり、風に散らされてふわっと広がり、ゆっくりと地面に落ちていく。まるで桜の花びらが散るように。
もうすぐ本物の桜の花が咲くころ、また新しい生徒たちが僕たちの元へやって来て、僕の新しい教師としての一年が始まる。
ここは私立聖ブルージョークス女学院。夢多き乙女たちが集う場所。
彼女たちの将来に、幸多かれ。
綾瀬先生が戻って来た僕に手鏡と湿ったタオルを差し出す。
「はい、クレンジング液をしみ込ませてあるから、口紅も取れますよ」
「全くもう!綾瀬先生や教頭先生まで一緒になってなんですか!」
僕が鏡を見ながら必死に顔を拭いていると、校長が腹の底から楽しそうに笑っていた。
「いや、これはいい。いっそ、わが校の恒例行事にしましょうか?」
「もう、校長先生までやめて下さいよ!」
「ホホホ。ところで片山先生、これはどうしましょうか?」
そう言って校長がスーツの内ポケットから取り出したのは、先日僕が出した退職願の封筒だった。あ!そうだった。僕は手鏡とタオルを綾瀬先生に返し、校長の前に立って直立不動の姿勢を取った。そして深々と頭を下げて言った。
「はい。あの……もし、お許しいただけるなら、もう少しこの仕事を続けてみたいと、その、そう思っておりまして……」
「おや、そうですか。では、これはこうですね」
そう言って校長はその封筒をビリビリと破り、さらに何度も何度も破いて小さな紙切れの山に変えた。そしてこう叫びながら、それをパッと宙に投げ上げる。
「わが校の卒業生たちと片山先生に前途を祝して!」
それは紙吹雪の様に僕たちの頭上に舞い上がり、風に散らされてふわっと広がり、ゆっくりと地面に落ちていく。まるで桜の花びらが散るように。
もうすぐ本物の桜の花が咲くころ、また新しい生徒たちが僕たちの元へやって来て、僕の新しい教師としての一年が始まる。
ここは私立聖ブルージョークス女学院。夢多き乙女たちが集う場所。
彼女たちの将来に、幸多かれ。