私立聖ブルージョークス女学院
体育祭当日は抜けるような、真っ青な初夏の空。その下で若さを弾けさせんばかりに走り回る生徒たちの姿は、とてもさわやかな光景だった。
借り物競走が始まった。スターターピストルの音を合図に体操着姿の乙女たちが一斉に走り出し、コースの真ん中あたりにある台の上の封筒を取り上げ、中の紙を引っ張り出す。そこに書いてある品物を観客席の中の人から借りてゴールへ向かう。だが、台の所で生徒たちが紙を見つめながら考え込んでいる時間が妙に長いような気がしてしょうがない。
僕はちょうど隣にいた教頭に質問してみた。
「なにか、考えている時間が長いように思うのですが?」
教頭は三角眼鏡をズイっと鼻の上にずり上げ、得意げに答えた。
「わが校の借り物競走は、少し頭をひねらないと何を借りたらよいのか、分かりにくい書き方になっておりますの。例えば、腕時計でしたら『表面に数字が12個書いてある物』という具合ですわね。デジタル時計ではダメですわよね。アナログの腕時計をお持ちの方はいませんか、と呼びかけねばならないわけです」
「な、なるほど。さすがは名門校ですね。あれ、今の子は人を連れて行きましたね?」
「書いてある内容は物とは限りません。青いシャツを来た男性でしたから、何かそういう事を表す内容が書いてあったのでしょう」
ゴールまでたどり着いた子は、判定係の綾瀬先生にその紙を見せ、持って来た物、あるいは連れて来た人がその条件に当てはまっているかチェックを受ける。判定係がオーケーを出して初めてゴールインと認められる。
最終組がスタートした。他の子が頭を抱えて考え込んでいるのに、一人だけすぐに観客席の方へ向かって猛然とダッシュした子がいた。
おや、あの縦ロールの髪型の子は見覚えがある。僕が始業式前に学校へ来た時、綾瀬先生の部屋の外で盗み聞きしていた三人の一人だ。確か、槇明日香という名前のちょっと不良っぽい子だ。
彼女は一目散に僕のいる場所へ走ってきた。というか、僕を目がけて走って来たのだ。そして少し息を弾ませながら僕に向かって言った。
「先生!一緒に来て、早く!」
借り物競走が始まった。スターターピストルの音を合図に体操着姿の乙女たちが一斉に走り出し、コースの真ん中あたりにある台の上の封筒を取り上げ、中の紙を引っ張り出す。そこに書いてある品物を観客席の中の人から借りてゴールへ向かう。だが、台の所で生徒たちが紙を見つめながら考え込んでいる時間が妙に長いような気がしてしょうがない。
僕はちょうど隣にいた教頭に質問してみた。
「なにか、考えている時間が長いように思うのですが?」
教頭は三角眼鏡をズイっと鼻の上にずり上げ、得意げに答えた。
「わが校の借り物競走は、少し頭をひねらないと何を借りたらよいのか、分かりにくい書き方になっておりますの。例えば、腕時計でしたら『表面に数字が12個書いてある物』という具合ですわね。デジタル時計ではダメですわよね。アナログの腕時計をお持ちの方はいませんか、と呼びかけねばならないわけです」
「な、なるほど。さすがは名門校ですね。あれ、今の子は人を連れて行きましたね?」
「書いてある内容は物とは限りません。青いシャツを来た男性でしたから、何かそういう事を表す内容が書いてあったのでしょう」
ゴールまでたどり着いた子は、判定係の綾瀬先生にその紙を見せ、持って来た物、あるいは連れて来た人がその条件に当てはまっているかチェックを受ける。判定係がオーケーを出して初めてゴールインと認められる。
最終組がスタートした。他の子が頭を抱えて考え込んでいるのに、一人だけすぐに観客席の方へ向かって猛然とダッシュした子がいた。
おや、あの縦ロールの髪型の子は見覚えがある。僕が始業式前に学校へ来た時、綾瀬先生の部屋の外で盗み聞きしていた三人の一人だ。確か、槇明日香という名前のちょっと不良っぽい子だ。
彼女は一目散に僕のいる場所へ走ってきた。というか、僕を目がけて走って来たのだ。そして少し息を弾ませながら僕に向かって言った。
「先生!一緒に来て、早く!」