サヨナラをいうまえに
リョウスケという人


長い廊下を足音をたてずに渡りきった。

ナースステーションに人影はナシ。


(よし!いける!!)


そう思った瞬間、目の前に白衣の男が現れた。




「また脱走するつもりですね!」



「あー、リョウスケ先生……こんばんは」




愛想笑いをしながら手を振ってみたけど。

相手は怖い顔をしながらこちらを見下ろしている。




「明日の朝までは安静にって約束でしたよね」



「それって、あと数時間後のことじゃない」



「そうですね。だからもう少しだけ大人しくしていてください」




私は肩に手をかけて、ぐるりと方向転換をさせられた。

せっかく歩いてきた廊下を逆戻りだ。




「明日の朝、ちゃんとベッドをチェックしにいきますからね」




そう言ってリョウスケ先生は私の病室の前までついてくる。




「では、おやすみなさい」



やわらかい笑顔。

子どもたちに向けるまなざしと一緒だ。




それが少し悔しい。

リョウスケ先生が戻っていく。

その後ろ姿を見ながら私はうつむいた。


白衣の白さが……悲しさを呼び起こす。

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