サヨナラをいうまえに
リョウスケ先生は私の通院する病院の研修医だ。
要するに見習い。
1人じゃなにもできない半人前。
でも患者さんの間では評判がいい。
信頼されてるとか腕が良いとか、
そんな立派な理由じゃないけど……。
いつでもニコニコしているから。
みんなきっと安心するんだと思う。
歳は27歳。
ネームプレートには「本田亮輔」の文字。
細身で可愛らしい顔をしているのに
メガネがその素顔をかくしてもったいない。
でも、私はそのメガネが大好きだ。
秘密は知っている人間が限られているほど
魅力があるように思う。
朝6時。
誰かの足音が近づいてくた。
リョウスケ先生?と一瞬、耳をすました。
軽い足音。……違う。
リョウスケ先生じゃない。
「美優ちゃん、具合はどう?」
姿を見せたのは看護師の安藤さんだった。
同じ病室の人の採血にきたのだろう。
ワゴンに採血キットが数個のっていた。
「ちょっとごめんね」
そう言うと安藤さんは私の右手の人差し指に
洗濯バサミのような機械をつけた。