サヨナラをいうまえに




「まだちょっと低いね。苦しくない?」


「もう慣れた。どのくらいが苦しいのか分からないよ」


「それは頼もしい言葉ね。でももう少し安静にしていてね」




十分、安静にしているつもりなんだけど。

きっとこの分じゃ、今日の朝までの「安静」という言葉は

数日、延長されることになるだろう。




「安藤さん。……リョウスケ先生、見なかった?」


「リョウスケ先生?今日はまだ見てないなぁ」


「……そう」


「どうしたの?やっぱりどこか苦しい?」


「ううん。大丈夫!調子が悪いなら安藤さんに

言ったほうが確実だもん。ちゃんと言うよ」




安藤さんの白衣にはいろいろなバッチがついている。

難しくてよく分からないけど。

いろいろな資格を持っているその証らしい。




確か30歳を過ぎているハズなのに、見た感じでは5歳は若い。

張りのある肌。長いまつげ。

すらりと伸びた手足は、まるでモデルのようだ。



綺麗な大人の女の人……。

私はしばらく安藤さんの顔を見上げていた。




「なあに?何か私の顔についてる?」


「ううん。綺麗だなぁ~、と思って」


「あら、嬉しい。でもまだ脱走は見逃せないわよ」


ふふふっ、と笑う声まで聞いていて心地がいい。
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