サヨナラをいうまえに
「は?」
「食べて」
「いえ、患者さんにモノをいただくのは……」
「これね、今朝の朝食のなの。食欲なくてよけておいたの」
食べる気になれなかった。
前日の発作の影響もあったかもしれないが、
心が食を拒んだのだと思う。
「センセイに食べてもらわないと廃棄処分」
昨夜、当直だったリョウスケ先生。
急変の患者さんでもいたのだろうか?
顔に疲れが見えた。
「あー、もったいな~い。あけちゃったし~」
私は牛乳にストローをさしてリョウスケ先生の手にのせた。
「あー、ついつい手が。手が勝手に動く~」
バナナの皮も途中までむいて渡す。
「……はい、では遠慮なくいただきます」
リョウスケ先生が困った顔をしながらストローを口にくわえた。