サヨナラをいうまえに
ここまでしないとリョウスケ先生は食べてくれない。
きっと朝食だってとっていないハズだ。
髪が普段よりみだれていることさえ気付いてないだろう。
「あとそれから……これは秘密兵器」
私は飲むゼリータイプの栄養補助食品を手にして
売り場のお姉さんのようなsmileを向けた。
「ああ、また勝手に手が動いてしまったー!」
キャップを回して開封!
当然、それもリョウスケ先生行きだ。
「笹本さん。私は餌付けをされる猿ですか?」
「いいえ」
とんでもない!私は首を左右に振った。
「餌付け中のわんこです」
リョウスケ先生がガックと肩を落とす。
そのとき、先生の胸元で携帯が鳴った。
呼び出しだ。
タイムアップ。
「すみません、今日は小児科のほうで人手がたりなくて」
電話を切ったリョウスケ先生がすでに立ちあがりながら言う。
「この時期はね。発作を起こす子が多いもんね」
かつての私もそうだった。
だから仕方がない。
「はい、これ。時間を見つけて摂取すべし!」
渡したゼリー飲料を見て先生がポカンとした顔をする。
「朝食、食べてないでしょう。この分だとお昼もいつ食べられるかわからないんじゃない?」
わざと明るい声でハキハキと話す。
「健康な体を不健康にするのは馬鹿のすること!」
しばらく無言でいたリョウスケ先生が小さく言った。
「いただきます。……ありがとう」
たったそれだけのこと。それなのに。
涙が出るほど。
嬉しかった。