愛してるの口づけ
愛してるの口づけ
「ごほっごほっ」

痰のからむいやな咳をして、寝返りを打ち仰向けになって目が覚めた。

ふと外に目をやるともう真っ暗だった。

“私は何時間寝ていたのだろう”

そんなことを思っているとガチャッっと部屋のドアが開いた音がして、

私は反射的に目を閉じた。

そっと大きくて暖かい手が私の額に、頬に、手に、足に触れ、

ふぅーっと大きなため息をついて

「やっと熱が下がったみたいだな。」

と安堵の声を漏らした。

私がもう起きていることを見透かしているような彼のその言葉に、

私は何か返事をしたかったが、どうしても、もう少し寝ていたくて黙っていた。

彼は、私の頭を撫で

「もう少し眠てるといい。でも、あとでちゃんとご飯を食べて薬を飲みなさい。」

といって立ち上がり部屋から出て行った。

私は、そんな彼が好きだ。

前の彼氏と別れた時、次に付き合うのなら自分から本当に愛した相手と付き合おう

と決めていた。

しかし、今の彼と出会ったその時にこの決心はもう壊れていたのかもしれない。

私は、彼を愛してはいない。

愛とは、「直感」であり、「錯覚」であり、「勘違い」である。

愛という形も無く触れられない、不確かなものを本気で信じられるほど単純ではなくなっ

た私は決心とは裏腹に、ただただ、自分を愛し、めでてくれる人を探していた。

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