インサイド
千帆は力強くうなずき、

「さっき、私が来たとき、先輩が弾いていた曲ってなんですか?」

「あぁ。あれはドビュッシー。彼の最初の作品だとかで、べたべたの星の光なんだけど、気に入った? これ」

べたべた?

 楽譜が手の中に降りてきた。

『星の光』はそのままタイトルだ。

「きれいでした。歌もきれいだったけど、先輩が弾いてるの、すごくかっこよかったですっ」

 防音の部屋でなければ、隣の教室にまで届いたかもしれない程の大きな声が出ていた。

ふと、空気が崩れた感じ。

一瞬。

ほろりと何かがこぼれるのを感じた。

「弾こうか?」

「いいんですかっ?」

「いいよー。入学祝」

 ほとんど言い終えないうちに千帆は楽譜を譜面台に預けて立ち上がり、とっととイスを譲り渡す。

裕明はその様子に楽しそうに笑って、
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