インサイド
それよりもさらなる問題児とは、ピアノだろうか、ヴァイオリンだろうか。

裕明が担当している下級生のことを話すことはなかったので、その手の情報を、千帆はネタ収集趣味の同級生から手に入れていた。

新入生百名のうち、幸運(千帆の個人的な決定だけではなく総意として)は四人にしか降り注がなかったのだ。

これほどに懇切丁寧な指導で引っ張ってもらいながら、どんな不満で手に負えないほど暴れたりするのかわからない。

これだけの達人に逆らおうなんて、どんな人間だろう。

「ここんとこだけ、も少し抜いて練習して。あと贅沢言わせてもらって、ここ。止まって一度音を全部消すと、次の始まりで目が覚める感じになる」

とんとん、と譜面をボールペンの先で叩く。

「手も足も、一度ピアノから離れて。ね」

「はいっ」

「今日はここまで、おつかれさまです。次はいつにしようかな。なんか最近ばたばたしてて、動きに予測がつかないとこあって難しいんだよ」

「先ぱい忙しいんだったら、私いいですよ。サマーコンサートの方がんばって下さい」
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