インサイド
「良くはないって、千帆ちゃん。そういう意味じゃないよ。調整したら声かけるから」

 教本をかばんに片付けながら、それでも構わないのに、と千帆は懲りずに考えるだけは考えていた。

口に出したらこれには怒るだろうと、多少のスリルを感じながら、上がり始めた感情はもはや止まるところを知らず、現在の状況としては犠牲的精神も新たに顔を覗かせたところ。

それがあなたのためだと言うのなら、わたしのことは気にしなくていいのよ。

とこのような思考タイプの出現には戸惑いを感じる。

それは未知の領域からやってきたものだから。

自分のことよりも、誰かを優先させて考えている。

面映いと言うかこそばゆいと言うのか、けれどいい気分だった。

悪いことでは絶対ないと思っている。

 かばんは背負ったものの立ち去りがたかった。

さようならを言ってしまえば、終わりになってしまう。

そう、次回は遠いかもしれないと、今予告されたところだったのだ。

イスにゆったり座っている裕明の様子に、後の予定が迫っている気配はない。

よし。
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