インサイド
ころり。

簡単にひるがえり、今までのことなどなかったかのように譜面に顔を近づける。

裕明を挟み、奏が反対側から愉しそうに声を弾ませた。

「小野里先生の曲だよん。天空の調べってやつ」

「なんだ。小野里の妙なる調べか。どうせ弾くならタツさん、もっと情熱あふれるとこ行きましょうよ。小手先の遊びに時間使うんじゃなくて」

「違うよ、あそー君。これは小野里先生の華麗なる情熱のセレナーデだからこんなに激しい和音が」

「奏、お願いするからやめなさい」

「情熱?」

ばしりと音のする乱暴さで、麻生は楽譜を取り上げた。

そして大きな目をさらに大きく、形きれいに丸くして、

「へえぇ、こりゃすごいわ。って言うか、凄まじくない? ヤロウはホント、タツさんに夢を見てるよね。ひょえー、高音ばっか。三つずらしてダークサイドに案内したろか」

「あそー君が弾けば完璧だね、それって」

「おう、聴かせたろか? オレ様の年季もんのピアノを」
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