インサイド
「兄弟子だな、キミには。いずれゆっくりお手並み拝見つーことで」

 真っ直ぐに差し出された手に、そんな考えはさっさと崩れかけていた。

大きな手は、

……汗だくだった。

だから、『一部屋一部屋見て回ったよ、校舎半分!』。

崩れかけていた塔が、堅固にぴしりと凍りついた、かもしれない。


「千帆ちゃんの演奏披露にみんなで、この曲を四重奏に分解してみよっか」

「ピアノピアノチェロ、で、たーちゃんはヴァイオリンにする?」

「ピアノ三台対チェロ一台。一河は命がけ。大変なヒト」

「オレ様の命はそんなもんに果てませんって。いいよ、行きましょー? 勝つよー、オレは」

 言い終えて少々間を置き、麻生は譜を持ったまま両腕を振り上げた。

誰も何も言わずとも、自分で気付いたのだ。

乗りかけてはいけない船に。
< 46 / 109 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop