インサイド
「言いたいこと言い合ったらすっきりするだろなーと思ったしさー。言わせとかないと言わなかったって気持ちが残るじゃん。我慢されてんの、気持ち悪い」

「だから抜きで話しろって? 修復不可能な溝が生まれたらどーすんスか。まったく。こんなとこで小野里なんかで遊んでたって知れたらどーすんだろ、オレ」

「がんばれよ、一河」

「なんでオレ?!」

 戻された鍵が再びポケットに納まるのを、千帆は見届けていた。

ブレザーの内ポケットの深い底に、それが横たわる姿をイメージしてしまって、……驚く。

奏がピアノに向かい、言っているのを聞いた。

またあした、と。

まるでいつものことなのだろう、他の二人は目も耳も向けていない。

麻生は出窓に置かれた裕明の荷物を抱え持ち、裕明はあちこちに広げられた譜を集め、重ねていた手を、ふと止めて、


「あ、そうだ」

と顔を上げた。

向こうで、麻生が顔を歪めている。
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