インサイド
 しかし名前など呼ばれない人だってたくさんいる。

姓ではなく名であるわけだし、奇妙なことではない。

けれどあえて隠そうとする、突然登場した魔法だの決まりだの、その言葉の関わりとはどのようなものだろう?

 さっぱり理解不可能。考えるだけ無駄に思える。

奏に問えば、答えは返るだろうか。

けれど話は別の方向に転がりだした。

奏がへろへろと言ったことから。


「私ねー、たーちゃんから話聞いてて、千帆ちゃんのピアノとっても聴きたかったんだよね。今度ゆっくり聴かせてね」

「話。え、話って? どんな話? 立木先ぱい、私のことなんて?!」

「気持ちがいいって言ってたよ、千帆ちゃんのピアノ。今年はたーちゃんとことんできるから幸せそう。去年はまだ二年生だったでしょ。あのご指導員って言うのは、どんなに優秀でも三年生しかなれないんだって言われてね。それでもあそー君みたいな弟子は勝手についてたけど、やっぱりもっとがっちりやりたかったんだよね」
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