インサイド
 息はつかず、彼女はただ黙り込んだ。

そこに凝縮された感情の重さを感じて、オレは触れてはならない領域を知った。

炎に触れたかのように、瞬間にして加熱する。

アメリアだけが知る、立木裕明の秘密の内面。

 オレはかなり大げさに息を吐き出した。

あきらめることを伝えるために。

「とにかく千帆には可能性はないっつーことだよな」

「そうね。かわいい子だから残念だと思うけど」


 なんやわからんままだったが、それはそれで置いておくことにして切り上げた。

何はともあれ、裕明は裕明で深い事情を抱えているそうなのだ。

オレは千帆の家のピアノであるからして、千帆がなんらかの手段を講じて自宅にやつを招待しない限り、やつのことはオレにはわかるはずもない。

そんなことができるような千帆なら。
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