インサイド

「遥くんのピアノだと静かに続いてきれいなんだね。私はそういうのすっごく下手。忙しい曲の方が楽だなって思っちゃう」

「それじゃ、小野里先生のレッスンは矯正なんだ」

「そ。立木先ぱいがそれがいいって。先ぱいの課題もこんな感じで、重ねて重ねての日々なんだよね」

　ふう。ため息を吐く千帆に、遥はカツンと。

「飽きてるんだ」

「え、なんでわかるの？　そんなあからさまに飽きてるって顔してた？　私。先ぱいにもわかっちゃう？」

「立木先輩はわからないことなんてないような気がする」

「それは、私もそう思う、けどー」

「弾きたい曲とか言ってみたらいいのに。あの人なんでもやるから、課題沿ったままできると思うよ」

「でも、これは確かに課題だなって思ってるんだ、私も」

「立ち向かうべき壁だって？」

「ん。試練ってやつねーて」

　譜を追う千帆の目に合わせページをめくり、押さえながら遥は言った。