インサイド
 問いかけそのものにショックを受けた感もある。

千帆は多分にメランコリィな空気を重たく纏いながら、打って変わってとぼとぼと足を引きずるように廊下を進んだ。


個人練習室の並ぶ廊下を行き、通り過ぎてから四歩戻った。

突き当りの三つ手前のドアが呼んでいる。

覗き窓からは後ろ姿がうかがえた。

胴体部分から右に左にと腕や手が出たり入ったりするのを見ているのも楽しくて、千帆はそのままそこに立ち見つめ続けた。

 ショックだのなんだのと。

目の前にしてしまえば、変に気持ちはすっきりしている。

――見ないで考えている時に、おかしなことにたどり着くわけだ。

 もう少しそのまま時が過ぎていたなら、そのことこそなぜなのかという疑問を思いついたことだろう。

けれど幸い、ページをめくる手を止めて遥が振り向いた。

笑顔で、ピアノを指差す。千帆の姿が映っていた。わかりやすい。
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