キミニアイヲ.
莉子は鼻と口を手の甲で覆って俯く。


「あたしは…っ、
あたしは本気で…楓のこと……!」


“好きなのに”



その言葉は、発することなく喉の奥に飲み込まれた。



「…莉子…!」


楓が何か言いたげに肩に触れようと手を伸ばすが、莉子はそれを振り払う。



「──っ…!」



その時、楓の目には、酷く傷付いて怯えた捨て猫のような表情の莉子が映った。


そして自身を襲う、胸を引き裂かれるような後悔と自責の念──



逃げるように部屋を飛び出していった莉子を追うことも出来ずに


「くそ…っ!!」


楓は自分への怒りを拳に込めて、部屋の壁を殴り付けた。




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