キミニアイヲ.
それによって更に言葉が出ない莉子は、隅っこで膝を抱えて、ただ湯気の立つお湯を眺めているだけだった。


すると──。



「ねぇ、何か俺に隠してることがあるでしょ?」


と、低く少し冷たい声がバスルームの中に響き渡った。



「えっ……」


「最近ずっと様子がおかしかっただろ。俺が気付いてないとでも思った?」



振り向くと、バスタブに片腕を掛けた楓が真剣な顔で莉子をまっすぐ見据えていた。



「そんなに俺に言えないこと?」


「………」



そう、楓が気付かないわけない。


その黄緑色の瞳は、いつだって莉子の本心を捉えているのだから。


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