キミニアイヲ.
「何で言わなかった?」



責めているのではないが、少し苛立ちが感じられる口調で楓が言う。


莉子は俯いて小さくなった。



「…妊娠が分かった時、正直“どうしよう”って思った。

楓がどんな反応するかも分からなかったし、ちゃんと愛して育てていけるのか自信もなくて……怖かった」



相変わらず雫の落ちる音だけが響く中で、ぽつりぽつりと話す莉子を楓は静かに黙って見つめる。



「でも心臓が動いてるの見たらね、“あぁ、ちゃんと生きてるんだ”って思って…
この子に逢いたくなった」



莉子はまだ平らなお腹にそっと手を当てて少し微笑む。


それは穏やかで、優しくて、温かい──

母性愛に満ちた笑顔。


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