真昼の月
深い霧の中に迷い込んでいるような気がする。あたし以外のものはすべて幻なのかもしれない。テレビの中の黒眼鏡の司会者みたいにスィッチを切るとぶうんと消えてしまうのかもしれない。部屋の空気とあたしの内側は切り離されている。あたしだけ別の世界にいる。脳内カメラは部屋の中を魚眼レンズを覗いたみたい映し出す。かと思うと視点がぐーっと引き離されて望遠鏡を逆さに覗いたみたいにも見せてくる。210度の双眸が二次元のざらざらしたスクリーンの中に納まって半裸のままのあたしがぐったりとソファに寝そべっているのが見えると、そのままで停止する。

「遠いなあ……ものすごく遠い。こんなに遠くまで来ちゃったよ」

今年の11月で22になる。高校を卒業して地元の短大を出て、銀行に就職したけど
半年でやめてしまった。銀行に就職したのは父の損保の代理店のお客さんに支店長さんがいたからだ。

その人の紹介。退職した原因?毎日残業ばかりでついていけなったのと、シビアな人間関係についていけなかったのと同じくらいの割合です。働いているときは傷を隠すのがけっこう大変だった。テニスで傷めたといっていつも手首にバンテージを貼っていた。テニスなんて一度もしたこともないのに、だ。
銀行を辞めてからずっと引きこもっている。

何かをするのがひどく億劫なのだ。外に行くのも、誰かに逢うのも、電話をするのも……
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