真昼の月
彼女は買ってきた薄切りパンの袋を開けて、パンにバターとマスタードを塗った。
レタスとトマトを綺麗に流水で洗い、きちんとキッチンペーパーでぬぐった。包丁とまな板の上でリズミカルにトマトを切る。レタスを敷き冷蔵庫にいったんしまった、ソーセージ屋で買ってきたきちんとしたベーコンを取り出しレタスの上に乗せ、トマトを載せるとBLTサンドが出来上がった。パンは綺麗に半分に切られて皿に盛られた。買ってきたばかりの濃い牛乳をレンジで温めてマグカップに注ぐ。

「できたわよ、さあいただきましょう」

なんだか泣けてくる。
誰かにご飯を作ってもらうなんて何年ぶりだろう……

「どうしたの?」

「いえ。ちょっと感動してる」あたしは正直に答えた。

「こんなことくらいで?」

「いいえ、ぜんぜんこんな事くらいじゃないです。すごいです」

「そう?」

「うん」

「ねえ聖羅ちゃん、うちに帰って来ない?」
真理子さんはあたしの包帯に視線を落とした。

「今はちょっと」

「もともとは聖羅ちゃんのお家なんだし。あたしたちが入ってきて居場所を取り上げてしまったみたいで

心苦しいのよ」

「そんなことないです」

「わたしの連れ子たちに遠慮してるのならそれは違うわよ。上の順一は社会人になってもう家を出たし、

下の拡も東京の大学に行ったから家にはいないし。聖羅ちゃんの居場所はあるし、ちゃんと部屋はそのままにしてあるから」

「ありがとう」

でも……いいんです。あたしはいなくなりますから。死ぬんです。あたしは自分の中で答えた。

< 19 / 60 >

この作品をシェア

pagetop