真昼の月
いいえ、あやまるのはあたしのほうです。余計者のせいでお二人の生活乱してごめんなさい。そういうことを口に出して言うと、真理子さんをまた傷つけそうだったので、あたしは自分の中でひとりごちた。
あたしはやっぱりいらない子だ。誰かに迷惑ばかりかけている。小さいころはママに。
そして今度は父と真理子さんに……

「ごめんなさい辛くなってきたんで横になっていいですか」

サンドイッチを一切れ食べてあたしはソファに横になった。

真理子さんはすまなそうな顔をした。

「いいえ、真理子さんのせいじゃないです。夕べ眠剤飲みすぎで寝すぎて頭が痛いんです」

「そうなの。じゃあ少し休むといいわ。わたしは帰るわね」食器を洗って真理子さんは帰った。

 寒い。足が深々と冷える。ソファから起き上がってベッドに向かう。
毛布を引っ張りあげて、えびのように丸くなってあたしは目を閉じる。眠ってしまえば何もわからなくなる。辛いことも苦しいことも、痛いこともない。

ずっと眠っていたい。何も感じないでいたい。

心なんてなくなればいい。心をなくしたら傷つくこともない。単調な毎日も、平凡な他人との付き合いも何の苦もなく、やり遂げられる。
淡々と生活して淡々と仕事をする。その簡単そうなことがあたしにはひどく難しい。そんなことができるくらい強かったら切ったりしない。
もう何も考えたくない。誰のことも思いだしたくない。自分の存在すら忘れたい……眠りの中に埋没し、冬眠中のかえるみたいに昏々と眠り続けよう。誰にも傷つけられないあたしだけのサンクチュアリの中にいて。
< 21 / 60 >

この作品をシェア

pagetop