真昼の月
セーラ『3歳のときからずっと一人だったのよ』

ト モ『僕もずっと一人だった』
セーラ『物理的にもね。母はいたけどいないとおんなじだったしね』

ト モ『僕もだ』

ト モ『小さいころ、僕は貰われてきた子かと思ったことがある。僕には姉と弟が二人いてね。母は歯科医、父は商社に勤めていた。小さいころから医者になれって言われて育ってきた。姉は今都内の病院で麻酔科の医者になっている。姉は小学校から私立でエスカレーター式に高校までいって私立の医大に行ったけど、僕は大学までずっと公立で勉強ばかりさせられてきた。なんで勉強しなくちゃならないのって聞いたら、小さいころに勉強すれば大人になってから勉強しなくても良いからだって言うんだ。でもそれは嘘だ。僕は大人になって今26歳だけどまだ勉強し続けている。去年医師の国家試験に落ちてからずっとぷー太郎で親掛かりで、医者にならなかったら死ぬしかないんだ。』

セーラ『そう』

セーラ『何でそんなに思いつめるの?』

ト モ『選択肢がひとつしかないから』

セーラ『オールオアナッシング』

ト モ『そういうこと。でももう疲れた。試験を受ける気力もないよ……』

セーラ『疲れたね』

ト モ『うん』

ト モ『聖羅』

セーラ『なあに』

ト モ『今度逢って欲しい』

セーラ『……』

指が止まった。
逢いたい気持ちと躊躇する気持ちがいっぺんに交錯する。どうしていいかわからなかったのでしばらくロム状態に入った。
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