真昼の月
チャットだと素直に感情表現できるのはなぜだろう。顔が見えないから余計な衒いがない。

もともと、あたしは人の目を見ながら話すのが苦手だった。小学校の低学年の頃、授業中教師が語りかけるようにあたしの顔に視線を落とすと必ず目をそらしていた。教師はあたしを呼んで、なぜ目をそらすのか問いただした。そんなことあたしにもよくわからない。ただ「見ると飲み込まれるから……」とだけ答えた。
教師は家庭訪問でそれを母親に告げた。病院に行ったほうがいいとまで言われていたらしい。学習困難なこどものように見られていたんだろう。母は、余計なお世話。と相手にしなかったみたいだけど……

銀行の窓口にいたときもそうだった。
お客さんの顔を見て話ができないので、何度も叱られた。頭ではわかっているんだけど、からだが言うことを聞かない。何度も指摘されているうちについに窓口をはずされてしまった。

それくらい人が苦手なのだ。

誰もいないと寂しい。誰かがいると緊張する。あたしはどうしたらいいんだろう。
誰か教えて欲しい。あたしはどうやって生きていったらいいの?誰も何も答えてくれない。あたしはどうして生きているの?あたしが生きている意味って何?答えてよ。誰でもいい、あたしに答えを頂戴。そうやっていつまであたしはここにいるんだろう。いつまで自分の中に引きこもっているんだろう。ここからどこかに行きたい。でもどこに行けばいいのかわからない。砂漠で迷える行く当てのない旅人みたい。

揺れる蜃気楼の向こうで見知らぬ誰かがあたしに手を振っている。ここにおいでと手招きする。あたしを導いてくれる誰か。もしくはあたしを冷たい暗闇に引きずり込もうとする死神。どちらかわからない。でもその人はあたしを必要としているみたいだった。
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