真昼の月
保護室に入れられて一週間くらいが過ぎた。
くらいというのは、ここにはカレンダーがないので、
看護士が点滴に来るたびにきょうは何日の何曜日か聞いていたからだ。

看護士は一日に5回部屋に訪れた。
3度の食事、点滴、傷の消毒をし、薬を飲ませるときの5回だ。

今日は傷の処置の時間にいつもくる中年の女性看護士
(入院したときにはじめてみたあの人)のほかに
外科の主治医が現れた。
40代くらいの小太りでオタクっぽい感じの男性医師だ。

傷は7針縫われていた。
裁縫の好きな外科医だったらしくて、綺麗に繕われた傷を見て

「コレは僕の作品だ。綺麗だろう」と言った。あたしは作品の素材を提供したらしい。

「素材が良かったからでしょ」

「素材は自分で切るところから始めないと意味ないね」外科医は言った。さらに、

「自分で自分を切ってどうするの? 君、車運転できる?」
いきなりそう聞かれてあたしは面食らった。

「はい、運転ぐらいはできますけど」

「君のやっていることはさ、自分の車を自分で壊してるようなものだよ。車はみんな大切に乗るだろう?ちょっとぶつけてへこむとすぐ修理に出す。自分からわざとどこかにぶつかって車を壊す人間は、まあたまにはいるかもしれないけど、そうはいない。車と人間は違うというかもしれないけどね、物質という観点からすればそう変わっているとは言えない。人間も物質だからね。違うのはその入れ物に心って言う得体の知れないものを積んでいるというだけだよ」外科医はそういった。
「傷の具合はだいぶいいね。若いからくっつくのが早い。抜糸と行きたいが最近の糸は溶けるんでね、その必要もないでしょう。おしまい」
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