真昼の月
「はい」

「あ・・・・・・わたし聖羅」

「・・・・・・いまどこにいる?心配してたよ」

「あのね、わたし今病院にいる。切って入院させられた」

「そうなんだ」

「うん…・・・」

「逢えるかな、病院に行けば」

「だめみたい。面会は家族だけだって」

「そうか。どれくらいで退院できそう?」

「それが・・・・・・外泊はできるけど退院はまだ先みたい」

「そこ、携帯繋がらないね」

「もってこれなかったし、使えないって言われた」

「じゃあ、外泊したら連絡欲しいな・・・・・・それと」

「なに?」

「夜、窓開けられる?」

「夜はカーテン閉める」

「じゃあちょっとだけ、廊下かなんかに出て」

「廊下に出てどうするの?」

窓の外を見て欲しい。とトモは言った。
「月が出ているかどうか確かめて欲しい」
「そんなことしてどうするの?明日の天気でも占うの?」
「太陽の光はからだを元気にする。月の光はこころを元気にする。聖羅に早く退院して欲しいから」
あの・・・・・・あたしは言いよどんだ。「勉強はかどってる?」
ぜんぜんだめだね、とトモは言い、「一応やれることはやっているけどね」と付け足した。
トモはまだ死にたいんだろうか?今それを聞いてもいいものだろうか・・・・・・
躊躇しているうちに電話が途切れた。
話の途中で切れることはしょっちゅうだったので気にも留めず、そのまま受話器を置いた。
太陽の光はからだを元気にする、月の光はこころを元気にする・・・・・・
トモが言った言葉が妙に胸元にひっかかった。月なんてそんなに気持ちを入れて見たことがなかったよ。
あたしには光なんて必要ないと思っていたからいつも部屋の窓は閉めっぱなしだった。
夜だって外なんか見たことない。
月の光はこころを元気にするのか・・・・・・じゃあ探すよ。今夜から。
あたしは自分に誓った。
トモも同じ月を見ているはずだ。月の光でこころが繋がるのなら昼間でも月を探そう。
トモに逢いたい。あたしの中に切実な何かが萌芽した。それが何かはわからなかったけど。

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