真昼の月
「うーんと、瞳は暗いけど真っ黒じゃない。ちょっとやわらかいね。白目は青白くなくて乳白色。優しそうな眼だね。そうだなあー、聖羅ちゃんは何でも似合うと思うけど、たとえばピンクなら青っぽいペールピンクとかじゃなくてもう少し色味を混ぜた暖かい色、サーモンピンクみたいなのが似合うと思うよ」

「そうなんだ」

「逆に止めといたほうがいいのは秋色の服。カーキとか、濃茶とか、黄土色とか、もみじ色はまりすぎてイメージ堅くなっちゃう」

「色、詳しいね」

「うん。絵を描くから。あとカラーアナリストにあこがれているの」

「カラーアナリストってなに?」あたしは尋ねた。

「色をね、たとえばこの人にはこういう色が似合うとかこういう生活シーンにはこういう色が適切だとか現実に沿って色の提案をしていく人のことファッションやメイク、インテリアなんかに重要な働きかけをする仕事なの」

「すごいねーちゃんと将来のことを考えてるんだ」

あたしが高校生の頃ってこんな風に自分の将来を考えたことなんてなかった。
流されるままに短大に行き、親の言うままに銀行に勤めて、いやになってやめた。
自分は何がすきか、何を求めているかなんて考えたことがなかった。
自分に自信もなくただ、毎日をやり過ごすことで汲々としていたのだ。

「いいなあ麗ちゃんは目標があって」

「でもお母さんはそういう仕事認めてくれない」

「美大受けたいって言ったらひどく怒られた。美大でて仕事についた人なんかいないって言う。お母さんはあたしを公務員にしたいみたい。大学でて行政職の上級受けなさいって言う。そうでなければ先生になりなさいって。
わたし、教師は好きじゃない。人を成績とか制服とか外見で評価するから」

「そうだよね」

杏奈が同意した。あたしも頷いた。
家族の話で盛り上がっていた話題が消沈した。
思い出したくない人たち、それがあたしたちにとっての家族らしかった。


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